独立行政法人 労働者健康安全機構 浜松労災病院

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臨床工学部Faculty of Clinical Engineering

スタッフ構成

  • 中央診療部長
    (臨床工学)

    島本しまもと 健 たけし

    中央診療部長(臨床工学) 島本 健 医師(心臓血管外科主任部長兼集中治療室長)を中心に技士5名、嘱託職員2名の計7名で業務を行っており、手術室、血管撮影室、集中治療室、透析室、病棟に人員を配置し、医学と工学の知識を兼ね備えた医療機器のスペシャリストとして、安全かつ良質な医療を提供できるよう24時間コール体制で対応しています。

    心臓血管外科
  • 中央臨床工学部の体制について

  • 中央臨床工学部長
    医療機器安全管理責任者

    興津おきつ 英和 ひでかず

    中央臨床工学部は、診療科が信頼して治療に専念できる専門知識を有するコメディカルスタッフ(Specialist)を目標に、最新の知見をもとに常にアップデートを重ね、業務を遂行しております。そのため、固定チーム制でのスタッフ教育を主としていますが、幅広い知識も必要と考え、専門領域だけでなく他業務範囲も従事させ、経験年数を積むことでジェネラリスト(Generalist)としても活躍できるように努めています。
    近年の医療には、高度な医療機器が必須となり、手術中や診療中の作動停止や誤作動は重大事故につながります。医療機器が安全に使用できる管理体制は中央臨床工学部の最重要業務と位置づけ、医療安全管理室と協同して機器の適正な運用向けた改善行動に努めています。我々は、治療を受けられる患者さんが、常に安心して高度な医療機器を用いた治療を受けることが出来るように日々努力しています。よろしくお願い致します。

専門資格取得者

  • 透析技術認定士: 1名
  • 体外循環技術認定士: 2名
  • 第1種ME技術認定士: 1名
  • 臨床ME専門認定士: 1名
  • 不整脈治療専門臨床工学技士: 1名
  • 3学会合同呼吸療法認定士: 1名

臨床工学技士とは、

医師の指示のもと、生命維持管理装置※の操作及び保守点検を行う医療スタッフ(以下:コメディカルスタッフ)のことをいいます。あまり聞きなれない職種と思いますが、最近ではコロナウイルス(COVID-19)治療に用いられる人工呼吸器やECMO(エクモ)を操作するコメディカルスタッフとして、メディアにも登場しています。他のコメディカルスタッフの中では、歴史が浅く知名度も決して高いとは言えない職種ですが、先端治療における医療機器の操作や保守管理において活躍する場を年々拡大しており、現在では、チーム医療には欠かせない職種となっています。
※生命維持管理装置とは、呼吸、循環、代謝の機能の一部を代行または補助することを目的とした医療機器のことです。

業務紹介

1.医療機器管理業務

1)医療機器の保守管理

院内には多種多様な医療機器があり、MEセンター(医療機器管理室)では約2000台の機器を管理しておりこれらの機器が適正かつ安全に稼働すべく、各種医療機器の点検、修理などの保守管理を担当しております。また、稼働率の高いシリンジポンプや輸液ポンプ、人工呼吸器等の12機種の医療機器については、MEセンターで一括管理を行い、病棟が必要時に点検済の機器を使用できるように準備しています。これら機器は単回使用として運用し、返却後は必ず点検・整備を行い、点検済みであることを証明する「点検・整備済み」シールを貼付した状態で保管しています。これらサイクル徹底することで、患者さまが、安心して医療機器を使用できる体制に努めています。

2)医療機器安全管理

病院長から医療機器安全管理者を拝命し、医療安全管理委員会の構成委員として、医療機器の安全性向上に努めております。具体的には、以下の内容について計画、実施、啓蒙を行っております。

  •  ①医療機器保守点検計画の立案と実施状況の管理(約600台)
  •  ②医療機器関連事象のインシデント分析、改善策の立案
  •  ③医療機器不具合情報や安全性情報の収集と周知

3)医療機器研修の計画と実施

新規導入機器の操作研修の実施、生命維持管理装置および放射線機器の定期研修の計画と実施を行っております。2017年以降は、対象医療機器の拡大や短時間頻回ショート研修会を開催し、3交代勤務スタッフにおいても、参加しやすい開催方式の導入や、ビデオ研修など開催方法についても検討し、効果的な研修になるよう常に改善しております。

~MEセンターの1日~

8:15 手術室の使用前点検

MEセンター担当者の最初の仕事は、手術室内の麻酔器や設備の使用前点検から始まります。特に各部屋の麻酔器の点検は重要で、麻酔医と情報共有しながら、システムテスト、校正、リークテスト等を実施し、安全確認を行います。また、手術室予定で使用機器についてもチェックリストに基づき点検を実施します。術中の不具合などに対して迅速に対応できるよう体制を整えています。

10:00 返却時点検、貸出、返却管理

回収した機器の終業点検整備を開始します。1日に60~80台の機器が入れ替わりますので、次から次へ機器の保守を行っていきます。週明けは、返却棚に収まり切れない数の機器が返却されてきますので、ひたすら清拭、点検、履歴管理に追われます。

11:00

MEセンター専用PHSに中央材料室からコールが入りました。
Aさん「洗浄上がったので手術器具(ラパロ鉗子)の点検お願いします」。
B技士「点検行うので向かいます。」
鉗子の種類ごとに点検方法が異なりますので丁寧に確認しながら、専用の点検工具にて基準から外れないよう、把持力テスト、被膜剥がれ、導通テストなどを丁寧に行っていきます。点検後は、折れや癖がつかないように専用ケースにまとめ、滅菌を行い次の手術に備えます。

12:00 昼食

13:00 定期点検

午後は、毎月約80台の定期点検が計画されているので、対象機器の定期点検を行います。今回は電気メスの定期点検を行っています。専用のテスターを用いて、規定値の出力が出ている、対極板の機能やもれ電流のテストなどを実施していきます。

15:00 人工呼吸器の使用中ラウンド点検

呼吸器が正常に作動していることや、患者さんが苦しがっていないか、設定確認や同調性のラウンド点検に回ります。これらの点検内容や伝達が必要な内容を電子カルテへ入力をします。時系列に情報更新されていくので、稼働状況や経過が多職種間で情報が共有できるようになっています。
この日は、ラウンド点検中に、看護師さんから痰が固くなってきていると連絡があり、人工鼻から加温加湿回路の変更を行いました。ラウンド中に呼吸器操作やモードなどの相談うけることもよくあります。

17:00

すべての点検件数や実施内容を、保守台帳等へデータ入力を行い一日が終わります。なお、夜間帯でも医療機器の安全な運用ができるように、24時間365日対応できるオンコール体制を構築しております。

実績

2019年6月以降、MEセンターの運用の見直しを行い、汎用医療機器の中央管理機器への移管を始め、対象機器は、6→20機種に増加し、日常点検(始業、終業点検)や院内修理対応件数が増加しています。

医療機器の保守件数

院内修理 院内定期点検 メーカ修理 メーカ定期点検 その他 日常点検 保守総数
2016 21 364 201 217 19 4146 4968
2017 12 358 150 227 19 4053 4819
2018 10 382 176 184 19 3803 4574
2019 156 599 212 159 11 6508 7645
2020 188 588 146 162 16 7422 8522

2.診療支援業務

チーム医療の一員として、医師、看護師、臨床検査技師、放射線技師など他職種と連携し、手術室、集中治療室、透析室、血管撮影室等で、下記のような業務を行っています。

1)手術室

手術室では、診療支援業務として人工心肺装置や補助循環装置の操作、自己血回収装置の操作、植込みディバイス患者の設定変更や、仙骨神経刺激療法(SNM)時における、刺激装置の操作等を行っています。さらにMEセンター担当スタッフと連動して、始業前の機器、設備点検、医療機器関連トラブルへの対応や故障時修理などにも迅速に対応しております。

①人工心肺業務
心臓の手術を行う場合一時的に心臓の動きを止める必要があります。その際、循環と呼吸を代行する必要があり、人工心肺装置という高度な医療機器を使用する必要があります。
臨床工学部には、2名の体外循環技術認定士が在籍し、3000例以上の人工心肺操作経験を持つ技士を中心に、心臓血管外科医・麻酔医・看護師と連携を取りながら安全で高度な心臓手術をサポートしています。
2020年10月島本心臓血管外科主任部長の赴任により、症例数が急増し、年間150例以上の開心術を実施しております。また患者さんの身体的負担を軽減することを目的とした低侵襲心臓手術(MICS)の導入や胸腹部大血管手術の実施など高度な体外循環が求められる術式が増え、日々研鑽に努めております。
また、人工心肺中の管理は目標指向型循環管理(goal-Directid Pufusion)を適応し、酸素の使用量(VO2)や炭酸ガス(VCO2)排出量をもとに必要な循環血液量を維持するように管理し、乳酸値の上昇の抑制や術後腎不全(AKI)の予防に努めています。
使用する人工心肺装置は、日本体外循環技術医学会、「人工心肺における安全装置設置基準(第6版)」に準拠した安全対策を行っています。また、使用するディバイスに不良があった場合にも速やかに対応できるべく、回路の工夫や、定期的にシュミレーショントレーニングを実施し万一の場合にも速やかに対応できるようにしています。(動画1)

緊急時に対応できるための人工肺交換シュミレーショントレーニングの実際

②術中自己血回収業務
主に整形外科や心臓血管外科症例に対して、輸血量削減を目的とした、術中自己血回収業務を年間200例程実施しています。複数診療科に対応するため、2台体制とし緊急時にも対応できる体制を整えています。

③仙骨神経刺激療法(SNM)業務
仙骨神経刺激療法(SNM)とは、活動膀胱の症状の改善に、仙骨神経に直接電気刺激を与え軽減を図る治療法です。お尻皮下に心臓ペースメーカのような装置を体内に植込みます。この際、泌尿器科医師と連携して刺激装置の操作を行っています。
日本でも2017年9月から健康保険が適用され、西部地区は当院が唯一の植込み施設となっています。
snm_oableaflet.pdf

~手術室の一日~
本日は2名の技士で大動脈弁置換術の人工心肺を担当します

8:15入室から始業点検

電子カルテにて最新の検査データを確認して手術室へ向かいます。最初に装置の始業点検を実施します。すべてのポンプの動作確認やポンプの向き、周辺装置の設定をすべて確認し問題ないことの確認を行います。次に、人工心肺に用いる薬剤の準備や、心臓が停止している間に灌流する保護液(心筋保護液)の調剤を行います。調剤時には、ダブルチェックによる確認と、血液ガス検査装置にて、組成濃度のチェックを行い、間違いがないことを確認して安全性を担保しております。

9:00 回路の組み立てと準備

患者さん入室後、人工心肺回路の組み立てを行います。
メインの回路担当者と心筋保護を担当する技士に分かれて準備を行います。安全装置の装着も確実に行います。その他、モニタリング機器やエコー装置、麻酔医の介助なども手術チームの一員として積極的に行い手術時間の短縮に努めています。

10:00 手術開始

医師、麻酔医、看護師など、すべてのスタッフにてブリーフィングから始まります。手術部位や薬剤、材料の準備など確認を行い執刀開始です。開胸後、術者が心臓に人工心肺をつなぐチューブ(カニューレ)を挿入し、装置と接続していきます。
術者から「ポンプスタート」の掛け声にて、慎重に計器類を確認しながらゆっくりポンプの回転数を増加していきます。飛行機の離陸のように患者さんの心臓を驚かせないように、人工心肺側に移行していきます。血液ガスデータ、圧力計、回転数などの計器類(モニタ)を注視して送血量を増加させて予定した流量で安定させたら、心臓を止めて手術が始まります。

心臓停止後は、すべて人工心肺で循環と呼吸を維持することになるため、術野の進行に合わせ連携して手術を妨げないように操作します。血圧や尿量、体温などは麻酔医の指示に従い調節し全身の十分な酸素や血液が循環されるように管理を行います。
吻合後、体外循環から離脱を始めていきますが、今後は飛行機の着陸のように、なだらかに心臓に移行していき負担がかからないように担当者の操作が重要になります。モニタ機器や麻酔医と連携して徐々に心臓に血液を戻しつつ、ポンプの流量をさげていき、停止までもっていきます。しかしまだまだ、終わりではなく、循環動態を注意深く観察しながら、血液の濃縮や機器の操作の補助にも関わります。

14:00 手術終了からICU帰室

手術終了後は、循環を維持するために複数のシリンジポンプ、モニタ、ドレーンなど多数の医療機器の医療機器が装着されているので、ICUまで医師とともに、患者さんを搬送します。ICU帰室後は、ICUスタッフや医師とともにモニタ機器や呼吸器のセットアップと機器の作動状況確認し安全確認を行います。

15:00 体外循環実施記録の作成と振り返り

手術の流れに合わせた体外循環操作実施記録を作成し、webコミュニケーションツールにて医師、手術室スタッフと振り返りを行なわれます。我々もより良いチーム医療ができるように積極的にディスカッションを行い、次の手術のプランにも反映し改善に努めています。

17:00

緊急手術に備え、装置の終業点検と材料の準備を行い一日がおわります。

2)血管撮影室

心臓血管造影検査(CAG)、経皮的冠動脈インターベーション(PCI)、経皮的末梢血管形成治療(EVT)、植込みディバイス操作(IPG)、カテーテル心筋焼却術(ABL)時の介助、操作等を行っています。

①心臓カテーテル検査(CAG)・心臓カテーテル治療(PCI)
心臓カテーテル検査(CAG)・心臓カテーテル治療(PCI)時に、診療放射線技師や看護師ともにチーム医療の一員として、ポリグラフや、血管内超音波診断装置(IVUS)等の操作を行っています。また、急性心筋梗塞(AMI)などの循環が不安定な患者さまに用いる、大動脈バルーンパンピング(IABP)や補助循環装置(ECMO)などの操作も行います。

②経皮的心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)
心房細動、発作性上室性頻拍、心室性期外収縮、心室頻拍などの異常な回路や異常な部分に対して、カテーテルを用いて焼灼または冷凍凝固を行い、不整脈を抑える治療も年々増加しており、この際の心内電位を導出するためのラボの操作や刺激装置(スティムレータ)や3Dマッピングの操作を行っています。

③植込みディバイス
ペースメーカ植込み時や植込み型心電図データレコーダ(ILR)時のプログラー操作を担当し心房・心室リードの閾値、感度、抵抗値の測定を行っています。
術後の動作状況の確認や退院後の外来や遠隔モニタリングを実施し、定期的なフォローアップも行っています。

CAG PCI(緊急を含む) 緊急PCI PPI IABP ロータ アブレーション ペースメーカ新規 ペースメーカ交換
2017 508 232 69 10 26 15 5 43 10
2018 480 219 66 7 20 9 8 39 8
2019 416 173 39 10 13 5 19 41 9
2020 378 170 48 21 10 3 56 44 17

~ABL業務の一日(未)~

3)集中治療室

医師、看護師、理学療法士、栄養士、薬剤師とともに、チーム医療の一員として、血液浄化療法機器、補助循環装置の操作・管理、人工呼吸器、非侵襲的陽圧換気法、HFNC等の補助を行っています。近年は、敗血症や急性膵炎などのnon-renal indicationにおける急性血液浄化療法にも対応しております。また、毎朝のカンファレンスにも参加し、早期介入と情報取集に努めております。

4)透析室

透析室は7床で、入院患者を対象として血液透析(濾過)を実施しています。それ以外にも、血漿交換療法、顆粒球除去(GCAP)、など実施しています。
透析では、1回に約150L もの量の透析液が使用されます。この透析液の「清浄度」が安全で快適な透析を行うための要となります。日本透析医会が定める水質管理基準に基づき毎月1回のエンドトキシン測定と生菌測定を行い透析液の管理を行っています。

5)その他

ペースメーカ外来、仙骨神経刺激療法(SNM)外来、RFA(経皮的ラジオ波焼灼療法)、在宅呼吸器入退院介助、腹水濾過等の業務も行っています。

学術実績

2020年

学会発表

  • 1)岡本拓也 他、「人工心肺離脱後の成人MUFの有効性について」、第68回日本職業・災害学会学術大会、2020.12、浜松

座長・司会

  • 1)興津英和:緊急企画講演座長「COVID-19に対する人工呼吸器・ECMOの管理」、第30回日本臨床工学会、2020.9、名古屋
  • 2)興津英和:モーニングセミナー司会「透析患者さんへ届けるシンプル!クライオバルーン心房細動アブレーション」、第30回日本臨床工学会、2020.9、名古屋
  • 3)興津英和:特別企画1座長「臨床工学技士と感染症対策」、日本集中治療医学会第4回東海北陸支部学術集会、2020.11、Web
  • 4)興津英和:シンポジウム2座長「集中治療と臨床工学技士」、日本集中治療医学会第4回東海北陸支部学術集会、2020.11、Web

2019年

学会発表および講演

  • 1)興津英和:講師「栄養士に必要な医療機器の知識」、第14回栄養士本部研修、2019.7、川崎
  • 2)興津英和:教育講演3「よくわかるセミナー循環モニタ」、第30回急性血液浄化学会学術大会、2019 10、浜松

座長・コメンテータ

  • 1)興津英和:教育講演1座長「心臓外科の術後管理について』第7回Jasect東海地方会学術セミナー 2019.6 浜松
  • 2)興津英和:教育講演座長「臨床工学技士が集中治療領域に関わるには」、第3回日本集中治療医学会東海北陸支部学術集会、2019.6 浜松
  • 3)興津英和:教育講演座長「加温加湿において注意すべきこと」第7回労災病院臨床工学技士会学術大会、2019.7 川崎
  • 4)興津英和:教育講演座長「集中治療管理バンドル 2019 〜腎機能管理における血液浄化法の位置づけ〜 』、第14回東海CHDF技術検討会、2019.7 名古屋
  • 5)興津英和:パネルディスカッション2座長、「開心術後、周術期人工呼吸管理を考える-perfusionist に求められる知識と今後のアプローチ-」、2019.10 名古屋
  • 6)興津英和:コメディカルファカルティー「複雑病変のストラテジー」、第1回SING Live研究会、2019.11、静岡
  • 7)興津英和:教育講演座長「心臓血管外科手術において perfusionist へ期待すること」、第43回体外循環技術医学会東海地方会学術大会、2020.2、浜松