独立行政法人 労働者健康安全機構 浜松労災病院

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心臓血管外科詳細

1. 虚血性心疾患

虚血性心疾患とは、直訳すると虚血(=血液に乏しい=酸素欠乏状態)にある心疾患(=心臓病)ということです。
人間の頭から足先まですべての細胞(臓器)は、血液によって酸素が運ばれて生きて働いています。そのすべての細胞に血液を送る役割を果たしているのが“心臓”です。心臓は4つの部屋からできていますが、その部屋の中でも全身に血液を送りだしているポンプの役割をしている部屋を左心室といいます。この左心室は一番分厚く、約1㎝の厚さの筋肉(心筋)でできています。左心室が1回収縮する(正常であれば1回の脈)と、1本の太い大動脈(直径3㎝)に約100mlの血液を送り出します。
では、一番最初に酸素を送る臓器はどこでしょう?それは、自分つまり心臓なのです。その大動脈からの枝分かれした心臓に栄養する血管を冠動脈といいます。冠動脈は、大動脈から2本分岐し、これを左冠動脈と右冠動脈といいます。左冠動脈はさらに前下行枝と回旋枝に分岐します(手術を受けられる患者さんはこの血管を理解しましょう)。この冠動脈に狭窄や閉塞が起こると、左心室の一部が酸素不足となり、胸の痛みとして感じます。典型的には、胸が締め付けられる痛みです。また、左心室が十分にポンプとしての機能が果たせなくなると、血液が肺にうっ滞して息苦しくなったり、全身の臓器まで機能が悪くなり生命を脅かす状態となります(心臓弁膜症を参照ください)。

【冠動脈】

大動脈から出る最初の血管は心臓自身を栄養する血管です。

【冠動脈バイパス術】

酸欠状態の心臓へ血液供給を回復するための外科的治療として、冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)があります。この手術はご存じのように平成天皇が受けられた手術です。簡単に言えば、狭窄や閉塞している箇所を迂回するように自分の血管(グラフト)を使ってバイパスルートを作ることです。使用できる自分の血管はいくつかあります。

【グラフトとして使用できる自分の血管】

当科では、長持ちする開存率の良い動脈(左右の内胸動脈)を第一選択としています。足の静脈(大伏在静脈)は、切り離して大動脈と冠動脈に吻合します。

【冠動脈バイパス術のための術式選択】

具体的な手術方法として、3つのパターンがあります。

  • ①人工心肺不使用、心拍動下冠動脈バイパス術(off pump CABG:OPCAB)
  • ②人工心肺使用、心拍動下冠動脈バイパス術(on pump beating CABG)
  • ③人工心肺使用、心停止下冠動脈バイパス術(conventional CABG)

一昔前までは、心臓を止めてバイパス手術(③)をしていましたが、近年では日本全国の手術データベースによると、約60%の症例でOPCABが行われております。特に周術期脳合併症リスクの高い症例については、OPCABが最も脳合併症が低いことが証明されています。当科では、基本術式をOPCABとし、患者さんへの負担を軽減し、早期リハビリや社会復帰できるような体制を整えております。

2. 心臓弁膜症

心臓は4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)から構成され、その部屋と部屋、部屋と血管には弁という組織(逆流防止弁)がついています。つまり、血液は心臓の中でも必ず一方通行なのです。心臓はよく“全身に血液を送るポンプの役割”をしていると表現されますが、それは具体的には左心室のことです。この左心室が1回収縮することで、大動脈に血液が駆出され、1回の脈として触れることができます。この左心室から送り出される血液は、赤色をしています。なぜ赤いかというと酸素が豊富に含まれているからで、これを動脈血と言います。つまり、左心室は全身に酸素(動脈血)を供給しているのです。では、全身で消費された酸素は、どんな色をしているでしょうか?それは、黒紫色です。これは酸素が少なく静脈血と言います。これは、患者さんも目で見ることができ、皮膚の黒い血管(採血する血液)です。つまり、採血する血液は、心臓に戻ろうとしている血液を採っているのです。この静脈血が心臓に戻ってくる部屋を右心房と言います。
では、次に問題になるのは、酸素が少ない静脈血をどこかで酸素の多い動脈血に変えないといけません。ヒトは呼吸をして酸素を肺に取り込んでいますので、心臓は一度、肺に静脈血を送り出さなければなりません。その役目が右心室です。右心室が収縮することによって肺に静脈血が送られ、肺を通過してきた血液は酸素をもらって、動脈血となって心臓に戻ってきます、その部屋が左心房です。左心房から僧帽弁を通過して左心室に血液は充満したら左心室が全身に血液を送り出しますが、その最後に通過する心臓の弁が大動脈弁です。心房は返ってくる血液を受け止める部屋で、心室はポンプとして駆出する部屋となっていることがわかると思います。これがヒトの血液の循環なのです。

心臓弁膜症で特に重要な弁は、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁です。それぞれ、狭窄症と逆流症(閉鎖不全症)がありますが、成人の弁膜症で多い疾患としては、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症があります。

疾患のことをお話しする前に、心不全のお話をしましょう。
弁膜症が進行すると心不全になることがあります。心不全とは簡単にいうと、心臓が原因で肺や足に水がたまり、肺の場合は呼吸苦、足の場合はむくみとして症状が現れます。特に心臓の左側の弁、つまり大動脈弁と僧帽弁が故障すると、狭窄症の場合は、前に血液が送り出せなくなるので、血液の交通渋滞が起こり、肺に血液(液体)がたまるので、呼吸が苦しくなります。それがもっと続くと、もっと下流の右側の三尖弁まで障害がでて、静脈血が右心房に戻ってこれなくなる。心臓から一番遠いところは足であり、かつ重力に逆らって血液が心臓にもどってくるので、足に一番影響がでやすく、戻ってこれない血液は足にたまりむくみ(浮腫)となるわけです。
肺に水が溜まって呼吸が苦しくなったら、利尿剤という薬で尿として体外に余分な水を出すことで心不全症状が改善します。しかしながらここで重要なことは、症状は改善しても、弁膜症は治っていないということです。つまり、心不全は薬である程度コントロールできますが、それもいつかは限界があり、その限界が来る前に弁の修復をすることで心臓の機能を保ち、生活レベルを維持することが重要なのです。症状が改善したから弁も治ったと勘違いされることがよくありますのでご注意ください。

【大動脈弁狭窄症】

高齢者に多く、多くは動脈硬化が原因です。この病気でやっかいなことは、重症になるまで症状が出にくいことです。突然死もある怖い病気です。一番よくわかるのは、聴診で心雑音が必ず聞こえます。かかりつけ医で聴診してもらいましょう。硬くなって狭くなった大動脈弁は、もとにはもどりませんので、人工弁にかえる必要がります。

【大動脈弁閉鎖不全症】

大動脈弁が何かしらの原因で接合が悪くなり、左心室から大動脈に駆出された血液が左心室内に逆流してしまう疾患です。長期間この状態が続くと、左心室が大きくなり左心室の収縮力も低下してきます。収縮力が過度に低下しないうちに手術をすべき疾患です。弁の傷み具合などによりますが、当科では弁形成術(自分の弁を温存して逆流をとめる)を行っております。日本でも形成術ができる数少ない施設の一つです。

【僧帽弁閉鎖不全症】

僧帽弁が何かしらの原因で接合が悪くなり、左室内に充満した血液が左心室の駆出とともに左心房内に逆流してしまう疾患です。当科では、弁形成術(自分の弁を温存して逆流をとめる)を第一選択としております。さらに最近では、小切開による低侵襲手術(MICS)を積極的に行っています。

【三尖弁閉鎖不全症】

左心系(大動脈弁や僧帽弁)疾患に付随しておこることが多く、血液の交通渋滞が右心系まで波及するため、右側の心臓が大きくなり弁の閉まりが悪くなり逆流が生じます。多くは、人工弁輪(リング)を装着しで縮めることで逆流は制御できます。

自己弁、つまり自分の弁を使って手術を成功させることには意味があります。まずは、自分のものが残せるのであれば、自分ものに勝るものはこの世の中にありません。特に機械弁は耐久性には優れますが、血栓を予防するために一生涯ワーファリン(血液サラサラ薬)を内服する必要があり、脳卒中(脳梗塞や脳出血)のリスクが高くなります。また、生体弁は牛や豚から作った弁ですが、このデメリットは耐久性が短く、年月が経つにつれて壊れやすくなります。

当科では、患者様ひとりひとりにBESTな治療法をご提示させていただきます。

3. 胸部や腹部の大動脈瘤や大動脈解離に対する手術

 人工血管置換術、腹部大動脈ステント留置術(循環器内科と合同)など

 大動脈がこぶのように太くなってくる大動脈瘤や、大動脈の内側の壁が裂けて生命の危機となり得る大動脈解離(解離性大動脈瘤)が主となります。 これらの病気は、全身動脈硬化の「氷山の一角」であることが多く、いわゆるメタボリック症候群などの方に生じやすい病気で、近年、急速に増加してきております。 特に胸部大動脈の手術は、まだまだ手術死亡率は、全国平均 3 〜7 %と高いのが現状ですが、 当院での手術死亡は、緊急手術と予定手術の合計でも、最近7年間では1例のみ(1.6 %)でした。

4. 心臓腫瘍、成人先天性心疾患などに対する手術

5. 心房細動という不整脈に対する手術

 メイズ手術、肺静脈隔離術など

6. あし(下肢)など血管がつまる閉塞性動脈硬化症や血栓症などに対する手術

 各種バイパス手術、血栓除去術など

7. あし(下肢)の静脈瘤の治療(薬物による硬化療法を含む)

 ストリッピング、高位結紮術、静脈瘤切除術、硬化療法(薬物による)など

 下肢静脈瘤硬化療法(高位結紮術併用)


治療前

治療後

手術成績表


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